1998年6月の終わり、
二年前ポルトガルで知り合って以来仲良しのゆきちゃんとゆみこさんから「来月、私たちヴェトナムの料理学校で日本料理教えることになったんだけど春美さんも和菓子教えに来る?」と誘われ、よく事情も飲み込めないまま二つ返事で「行く!行く!」。
この企画、ヴェトナムの料理学校(実際は国営の女性のための職業訓練orカルチャースクール)で日本料理をおしえるというもので、実は1年がかりで実現したのです。

ポルトガルの「パウロの家&カステラ工房」で働いてた「助っ人YUKIちゃん」、そして江古田の金物屋「サン・アダチ」の奥様でスペイン語ペラペラの由美子さん。この二人、料理が大好きで世界各地に出没してはその国の家庭料理を学んでいて、去年ヴェトナムのこの料理学校でヴェトナム料理を習ったのでした。
その時の現地ガイド&コーディネーターの富沢さんより、今度はベトナムの人に日本料理を教えてみないかと持ちかけられ、すっかり乗り気になった2人はやる気マンマンなところを彼にアピールし続けました。

そして由美子さんとご主人がベトナム雑貨の買い付け旅行に行くことになったのがきっかけで、現地でも富沢さんが学校との交渉など実現に向けて奔走し始めたのでした。
7月1日にはヴェトナム入りした由美子さんは1週間でご主人を帰国させた後、ゆきちゃんと二人で、五日間の日本料理コースのためのメニュー作りと試作にとりかかりました。
メニューは毎回テーマを決め、そのシーンにあった典型的な家庭料理をヴェトナムの家庭でも簡単に出来るレシピで紹介するというもので、二人の苦労は大変なものだったと思います。
試作はアパートメントの大家さんのキッチンを借りてやったのですが、家のおばちゃんたちは、ものめずらしげにのぞき込んだり、見かねて手伝ってくれたりはすごくするんだけど、出来たものを決して食べようとはしないの。よくわからないものはあまり食べたがらないみたい。二人はいつも大家さんちの晩ごはんタカってたんだけどね。

このコースの生徒さんは、なんと皆料理を教えることを生業(ナリワイ)としているいわばヴェトナムの小林カツ代が40人、しかも学校側の特別ご招待だったそうです。中にはTVで見ない日はないというくらい有名な若いお料理の先生もいたりして、(やはり彼女は他の人とチト違う。私たちは「岸ユキ(東京電力のCMにでてるヒト。ソックリ)」と呼んでいた)つまり、私たちは恐れおおくも料理のプロに教えてしまったんですね。
でも、そこはゆきちゃん、ゆみこさんの度胸とバイタリティで、通訳のクィンさんのちょっとつたない日本語もものともせず、すっかり打ち解けた雰囲気でレクチャーは進み、日を追うごとに評判になって参加者もふえてきてしまったのです。
特にてんぷらとコロッケが人気で、大根おろしにしょうゆをたらして、てんぷらをつけて食べるというのが珍しくてとても気に入っていたようです。 パン粉がなくて屋台で買ってきたフランスパン(ベトナムのフランスパンは超おいしい)を乾燥させておろしてつくったり、「だし」も昆布や鰹節もどきのを市場でさがして、なんていう苦労のかいあって、最初は大家のおばちゃんたちのようにおそるおそるだった試食もあっというまになくなるようになりさすがに料理の先生方だけあって調理にもどんどんトライするようになったんだって。
私が合流した頃にはもう二人はすっかりアイドル状態で、私の事まで特別ゲスト扱いで迎えられてしまい超緊張でした。
私たちはヴェトナムでもう一つ貴重な体験をしました。そう!FMラジオ生出演です。J-WAVEの朝の人気番組TOKIO TODAYで、ナビゲーターのジョン・カビラさんから電話インタビューを受けることが、私が空港に向かうバスの中で決まったのです。
YUKIちゃんと私は「きゃー!愛しのジョン様とお話が出来るのね!」とかなり興奮ぎみ。当日の朝は5時におきてアパートに1台だけある電話の周りに椅子を並べて待機。緊張してたけど、電話からあのいつものジョンカビラ節が聞こえたらすっかりリラックスしちゃった。
さてその日はコース最終日、私の和菓子レクチャーは特別プログラムなんだって。

メニューはドラやき&四季の練りきりデモンストレーション。(練りきり:白あんにつなぎとしてもちや芋を少し練りいれたあん。花や鳥など形つくって、四季を表現する。)なぜ「ドラやき」かというと、ヴェトナムでは「ドラえもん」が大人気だから。中に入れるあんこは日本の小豆とヴェトナムの小豆で作った粒あんとヴェトナムでとてもポピュラーな緑豆あんの3種。
ヴェトナムのお菓子は本当に和菓子によく似てるの。豆やもち米を煮たり、蒸したり、味付けも砂糖だけで油を使わないというお菓子は、中国にもない世界でも日本とヴェトナム、カンボジアあたりだけのめずらしいものです。練りきりもとても喜んでくれて、一緒に形作ったりしたんだけどとてもじょうず。ドラやき焼くのもすぐに丸く焼けるようになって、さすが料理の先生でした。練りきりも全部食べてしまったのには驚きました。
ヴェトナムに行く前日にも東京で在日アメリカ人の主婦たちに練りきりのデモンストレーションをやったのですが、彼女たちは作りたがるんですが、あまり器用じゃないし練りきりのように脂肪分が全くないお菓子は苦手のようです。

最後、終業式の時には感謝状まで頂いてしまって、感激でした。この先生たち日本を好きになってくれたかなあ。また生徒たちに日本の家庭料理を教えていってくれるのかなあと、想像するとなんだかワクワクしちゃいました。

結局私は何もしてないんだけど由美子さんとゆきちゃんのおかげで、ヴェトナムに行きたいという夢がすごい体験とともにかなったし、ホーチミンシティを知り尽くした2人のつれてってくれる店や屋台は抜群においしくて、安くて、また行かなくちゃってかんじです。


一ヶ月後、ガイドの富沢さんからこんなうれしいメールが届いた・・・

ところで黒田さんが教えた「ドラ焼き」ですが、現在ベトナム人の先生に よって 授業の献立の一つとなっております。名前はベトナム語で「バン’ドレーモン」。こうして日本の文化がここホーチミンで少しづつでも広がっていくのですね〜。 そしてそれを伝えたのは他でもない! あなた! 黒田春美先生でござ〜い(笑)

その他の日本料理の献立も早速授業で教えているみたいです。
今度由美子さんはその授業に参加させてもらうことになりました。